『花とアリス』
もう桜の季節もいい加減すぎてしまいましたが(北国以外)、毎年その季節になると思い出す映画があります。今やテレビを点ければ顔を見ない日はない女優になった蒼井優がブレイクする直前の出演作、『花とアリス』。「毎年」と言っても2004年の映画なのでさほど年を重ねてるわけではないし、この映画の中での時間の経過は冬から夏(初秋?)にかけてで桜が出てくるのは1シーンだけなのですが、映画の公開自体が春先だったこともあるのかなぜか印象に残っているんですよね。現在発売中の雑誌「spring」の表紙が蒼井優で、ちょうどこの映画のラストシーンに出てくる雑誌の表紙を思わせます。
どんな映画かというとちょっと説明が難しい。型どおりに言えば、鈴木杏が演じるハナと蒼井優演じるアリスの友情と恋のさや当てを描いたラブコメディで、仲良し二人組の間に現れたちょっと不思議な異性をめぐる三角関係という少年少女向けラブコメの黄金パターンではあるのですが、どうにもその枠に収まっている気がしません。ハナがあこがれの先輩に「じゃあ、私に告白したことも忘れちゃったんですか?!」と記憶喪失と思いこませる、という基本設定は冗談としか思えないし妙な口調の落研部長をはじめとしてコミカルなキャラはいっぱい出てくるけど、映画としてはギャグとして撮ってないし、思いに身を焦がすようなラブストーリー要素も実はあんまり強くない。
じゃあいったいなんなのかと見返して思ったのは、この映画の本質は「やってみたら出来ちゃった」という、少女たちが秘めた可能性とパワーそのものだったんですね。ハナの嘘にしても、その嘘につきあっているうちにのめり込んでゆくアリスにしても、「もともと自分が望んでいたわけではなかったけど、ちょっとしたきっかけがあってやってみたら出来ちゃって止められない」という感じで、これから何が飛び出すか分からない、鈴木杏・蒼井優という女優たちが潜在させているパワーを象徴させているように思えます。
もともとこの映画はチョコレート菓子のキットカットのプロモーション用ショート・フィルムの企画をふくらませたもので、本来的には当時のキットカットのイメージキャラクターである鈴木杏がメインでフィーチャーされるべきではあるのですが、実際の映画では蒼井優演じるアリスの方が扱いが大きかったりします。本筋の三角関係とはあまり関わりのないサブストーリーとしてアリスの両親が離婚している状況とか芸能事務所からスカウトされるとか大きく取り扱われていて、ハナ用のクライマックスの後の大トリとしてアリスが初めてオーディションに合格するシーンがこの映画のクライマックス。まさに「内なるパワーの発現」といった感じで、その後の蒼井優のブレイクを予言したシーンと言えましょう。
一方、鈴木杏は……正直言ってこの頃から顔が大きく育って来ちゃったのでもう可愛い系の役は難しそうなんですが、『吉祥天女』(鈴木杏の演技“だけ”は良かった、との評もある)なんかを見ると演技派としてやっていけるんじゃないかなぁ、と。
この映画はカメラマン・篠田昇の遺作であり、ずっと二人三脚でやってきた監督・岩井俊二はこの後実写映画を撮っていません。そろそろ新作も見たいところですが……
DATA:
『花とアリス』(2004)
監督・脚本:岩井俊二
出演:鈴木杏 蒼井優 郭智博
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